やがてうれしい中国茶 / 浅井恵子

初夏の烏龍茶会

ことの始まりは去年の秋のことだった。
「来年の6月6日、予定ありますか」というハナジマ氏からの電話には正直戸惑った。
「6月6日ですか?マネージャーに確認します」なんて冗談を言ってはみたけれど、もちろん半年以上も先の予定が決まっているはずもない。
毎年、春と秋に台湾で知り合った仲間とでお茶会を始めてからもう7~8年になる。
10年ほど前、まだ「お茶会」というものが珍しかった台湾で、とある先生主催のお茶会があるとお誘いを受けた。
その時、台湾在住で茶主人を務めていたのがハナジマ氏。同じく在住組のナカネ夫妻もお客として参加していたと後で知った。
台湾での仕事が終わって日本に戻ってきた彼らと、こうして一緒にお茶会を開く仲になろうとは、そのときには想像もしないことだった。
ハナジマ氏の発案で始まった日本でのお茶会は、どうしてもみんなの予定があわずに一度もしなかった年もあったほど緩やかな集まりで、そういうことが却って長続きの秘訣だったのかもしれない。

しかし、今回のハナジマ氏の電話は、なんだかもう一歩踏み出さなければならない時が来たような予感がした。
「お煎茶の仲間がね、おいしい烏龍茶を飲んだことがないって言うんですよ。
だからみなさんの力を借りて、烏龍茶の本当のおいしさを知ってもらいたいんです」
なんかそれって、責任重大じゃないですか、私たち…。
「場所はね、お煎茶でよく使う三鷹にある井心亭(せいしんてい)ってところが、茶室が二つもあるのに公共の施設なので格安なんですよ。
でもそれだけに人気で、一番早くても来年の6月6日しか予約が取れません。
一応押さえましたから、よろしく」
ええっ?それって、決定ですか…。

あっという間に半年が過ぎ、とうとうその日がやってきた。
広間に設置した大きな座卓を使った茶席を前に、最初のお客さまを迎えるまであと5分。
お湯は沸いている。
茶葉も18g量ってガラスの茶筒に納まっている。
茶器もそれぞれの場所で出番を待っている。
目を閉じて一通り手順をイメージトレーニング。
時間がきて静かに障子が開く。
お客さまが席についてご挨拶をする。
これからいれる烏龍茶の説明をする。
「2009年冬に採れた台湾・木柵の鉄観音です」
一瞬にしてすべての手順が頭から消えた。
大丈夫、大切なのは順番じゃない、その意味だ。
どうしたらお茶をおいしくいれられるのか、考えろ!
そうすれば手順はあとからついてくる…、たぶんね。

「よくあるご質問」

-烏龍茶のお茶会ってどんなことをするんですか?

茶主人(お茶をいれるひとのこと)が選んだお茶を楽しく味わっていただくために、最善(と考える)いれかたや、季節に合わせた設えなどでお客さまをおもてなしするのがお茶会です。

-お招きを受けたのですが、初めてなのでお作法がわかりません。

とくに決まったお作法というものはありませんからご安心ください。
最初に茶葉を観察していただきます。その時は茶葉の色・形・艶・香りを注意してご覧になってください。
次に温めた茶壷(急須)に茶葉をいれて、熱による香りの変化を確かめていただきます。
そしていよいよお茶を飲んでいただきます。
その時も、まず香りを確かめてください。お茶は高温(98度前後)でいれますので、熱いのが苦手な方はゆっくりと時間をかけて飲んでください。
飲み終わったら、茶杯(湯飲)に残った香りを楽しんでください。
茶杯の温度が下がると香りも驚くほど変化します。
これらのことはその都度、茶主人がご説明しますので覚える必要はありません。
だいたい4~5煎飲んでいただいて終わります。
1煎ごとの味の変化(←するハズです)を楽しんでいただけると嬉しいです。

-烏龍茶のお茶会でもお菓子はいただくのでしょうか?

烏龍茶の特徴のひとつに甘味があります。
その点から考えるとお菓子は必要ないという方もいますが、やはりそれはお茶会の楽しみでもあると思いますのでご用意しています。
ただし、お茶の味に影響しますので、お茶が終わったあとでお出しすることになります。
そのあとお口直しのために薄めのお茶をご用意しています。

-どんな服装をしていけばいいですか?

これもとくに決まりはありません。
「ひさしぶりに会うお友だちと外でお茶をする」くらいの服装で充分です。
畳に正座が予想される場合には、こっそり足を崩せる服装が無難です。

-お茶会の最中に話しかけてもいいですか?

お話は大歓迎です。烏龍茶のことで疑問をお持ちのことはなんでもお聞き下さい。
ただし、お茶をいれている最中は頭の中で頃合を計っていますので、どうか話しかけないでください。
お客さま同士のお話はこの限りではありません。

(以上は、すべて「私たちのお茶会では」という答えです。)

つい先日のこと、ハナジマ氏から再び電話があった。
「お茶会、お疲れさまでした。
お煎茶の仲間もとても喜んでくれて、烏龍茶のおいしさを認識したようです。
ところで、12月12日予定入ってますか?
秋以降だとその日しか空いていないんですよ、井心亭。
こんどはお抹茶の人たちと一緒にどうかなと思って」
「御意!」

さて、次回は鉄観音茶をご一緒しましょう。

まずは茶壷(急須)を温めて。お茶会の始まりです。 まずは茶壷(急須)を温めて。お茶会の始まりです。
鉄観音の水色(すいしょく)は、はちみつ色とも杏色とも言われています。 鉄観音の水色(すいしょく)は、はちみつ色とも杏色とも言われています。
最後にまだ余力のある茶葉の香りを確かめていただきました。 最後にまだ余力のある茶葉の香りを確かめていただきました。
お茶会ではやはりお菓子は楽しみのひとつ、外せません。 お茶会ではやはりお菓子は楽しみのひとつ、外せません。
初夏の庭も私の強い味方、背後からそっと見守ってくれました。 初夏の庭も私の強い味方、背後からそっと見守ってくれました。
浅井恵子

10数年の会社勤務ののち、専門学校で中国語を学びその後半年ほど北京に語学留学をする。
中国茶との出会いは20年ほど前に台湾で飲んだ烏龍茶。
その台湾で知り合ったお茶仲間と年に1~2回お茶会を開き、
またお声がかかれば道具持参でお茶をいれに行くこともしばしば。
お茶と同じくらいに好きなものが布。どうして好きなのかは自分でもよく分からず。
ブログ:布とお茶を巡る旅 http://nunocha.exblog.jp/