やがてうれしい中国茶 / 浅井恵子

龍井茶(ろんじんちゃ)

細く扁平でつるつるとすべらかな茶葉。釜に茶葉を押し付けるように炒って作られる。 写真|稲垣早苗

「もしもし、こんばんは。アサイさん、先日はけっこうなものをありがとう」
「いかがでした?お口にあいました」
「いや~、今までずいぶん龍井茶を飲んできたけど、ひさしぶりにあんなおいしいお茶に当ったわ。香りもええし、味もしっかりしてたわ」
「味の分かる方にそう言っていただけると、お贈りした甲斐があります」
「あんたうまいこと言うわ。ところであのお茶、どうしたん?」
「知り合いの中国の方にいただいたんですよ。飲んでみたらあまりにおいしかったので、これはNさんにも飲んでいただきたいと思って、お送りしたってわけですよ」
「そんな時に思い出してもらえるってことがまず嬉しいわ。そこでちょっとお願いなんやけど、あのお茶もっと手にはいらん?」
「えっ、もっとですか」
「う~ん、できればうちとこのお客さんにも飲ませてあげたいし」
「………」
「あっ、もちろんお代はちゃんと払うよ。手に入らんかなぁ」
「そうですか、じゃ、ちょっと聞いてみますけど、どれくらい欲しいんですか」
「そりゃまぁ、値段にもよるわね」
「確かに。じゃそれも合わせて聞いてみます」

「もしもし、シゲコさん。先日はお茶をありがとうございました」
「あら、ケイコさん、あのお茶いかがでした」
「あんなにおいしい龍井茶、初めて!独り占めしちゃバチが当るとおもって、一缶お友だちに贈ったの。その方、京都の先斗町でお茶のお店をしているんだけど、さっきお礼の電話がかかってきてね」
「え~、そんなプロの方にも喜んでいただけたんですね」
「もう大絶賛。それでね、できることならあのお茶を買いたいっていうのよ」
「う~ん、あれは主人が知り合いの方にいただいたものなんですよ。それなりの方からいただいたので、きっといいお茶だろうからケイコさんにって。ほら、うちの主人って中国人のくせに、お茶の味なんてぜんぜん分からない人でしょう」
「そうか、ワンさんがいただいたお茶だったのね」
「まだ上海にいるので電話して聞いてみましょうか。で、どれくらい欲しいんですか」
「それはお値段次第なんですけど、ね」
「そうですね。値段も聞かずに買うなんて怖くてできませんよね。じゃ分かったらご連絡します」
「ありがとう。よろしくお願いします」

「もしもし、ケイコさん。お久しぶり、ワンです」
「あっ、ワンさん。いまどちら」
「まだ上海ですよ。うちの奥さんから聞いたけど、あのお茶がほしいんだって」
「そうなのよ。シゲコさんから二缶いただいたので、お茶の仕事を30年もしている味の分かるお友だちに一缶あげたら、買いたいって言われちゃって、ね」
「あれは特別なお茶で、どこにも売ってないの。最近知り合った上海のちょっと偉い人がね、茶農家から直接取り寄せているお茶ね」
「じゃぁ、その方にお金を払うから分けてくれなんていうのはとっても失礼なことなのね」
「ボクがそんなこと言ったら、ワンさん水臭いよ、必要なら欲しいだけあげるからって言われるに決まってるよ。」
「えっ、貰えるの」
「でもそこで貰っちゃったら後でどういうことになるか、ケイコさん、分かるでしょう」
「……、ただより高いモノはないってこと?そっか、本当にいいお茶はそうやって市場にでないってことなのね」
「そういうこと。確かウチにもう一缶あるはずだから、それをその味の分かるお友だちにあげてよ。うちの奥さんにそう電話しておくからね」
「ありがとう。じゃ来年もよろしくね」

長めのガラスのコップに入れた茶葉に、
湯を注いでいただくことも。
器:さこうゆうこ作グラスジェリーのコップ

中国茶と聞いて、真っ先に思い浮かべるのは烏龍茶ではありませんか?ところが中国で生産量も消費量も一番多いのは緑茶で、全体の6~7割を占めています。
その緑茶の中でも銘茶として名高いのが龍井茶です。龍井茶は色・香り・味・形が優れていることから「四絶:しぜつ」と表現されます。
摘んだ茶葉にすぐに熱を加えて酸化酵素の働きを止めてしまうのが緑茶ですが、熱処理の方法が釜炒りなので、やや香ばしく柔らかな甘味があります。中国では「緑豆の香り」と言われています。

龍井茶は上海の近く、風光明媚な観光地としても人気の高い杭州の西湖のほとりにある龍井村一帯で作られています。現在では、その人気のために全国的に同じ製法で作られたお茶が「龍井茶」として販売されていますが、「西湖龍井茶」と名のれるのは、龍井村一帯で作られたお茶だけです。その中でも獅峰山・梅家塢(いずれも地名)が高級茶の産地としてとくに有名です。

さらに清明節(4月5日ころ)の前に摘まれた「明前」龍井茶が最も質のよいものとされて、次いで清明節から穀雨までに摘まれた「雨前」龍井茶が人気となります。ですから「獅峰明前龍井茶」といえば、最高級のお茶ということが分かります。

【淹れ方のポイント】
*背の高いグラスに直接茶葉を入れて、お湯を注ぐのが中国では一般的な飲み方です。
水は一度沸騰させてから、香りを重視するなら80~85度くらい、味を重視するなら75度前後を目安とします。
まずお湯でグラスを温めておき、そこに3gほどの茶葉をいれます。
茶葉が隠れるくらいまでお湯を注ぎ1分くらい待ちます。
茶葉が少し開いてきたらさらにお湯を足します。こうすると茶葉が沈んで飲みやすくなります。お湯の量は合わせて150ccほどです。

一煎目を楽しんだら、三分の一ほど残しておいて、お湯を注ぎ二煎目とします。
長くおいても日本茶のように苦味がでてしまうということはありません。

*蓋碗を使う
グラスの時と同じように温めた茶器に茶葉をいれ、隠れるくらいのお湯を注ぎ、茶が少し開いたらお湯を足します。
蓋碗は急須の代わりとして使って、小さな茶碗に注ぎ分けることもあります。
その場合、蓋碗から一度ピッチャーのような器に注いでから、茶碗に注ぎ分けると、濃さが均等になります。

*ガラスのポットを使う
基本的な入れ方は同じですが、人数が多いときにはポットもお勧めです。
ハーブティー用のガラスのポットで茶葉の美しさをみていただきましょう。

さて、次回は凍頂烏龍茶をご紹介しましょう。

浅井恵子

10数年の会社勤務ののち、専門学校で中国語を学びその後半年ほど北京に語学留学をする。
中国茶との出会いは20年ほど前に台湾で飲んだ烏龍茶。
その台湾で知り合ったお茶仲間と年に1~2回お茶会を開き、
またお声がかかれば道具持参でお茶をいれに行くこともしばしば。
お茶と同じくらいに好きなものが布。どうして好きなのかは自分でもよく分からず。
ブログ:布とお茶を巡る旅 http://nunocha.exblog.jp/